自動運転のまち塩尻。未来を見据えた交通DXと共創への挑戦
【画像】2025年度に導入された自動運転バス「Minibus2.0」
長野県中部に位置し、古くから交通の要衝として栄えてきた塩尻市は、2020年度から産学官民共創による交通DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んできました。全国に先駆けた実証を重ねる「自動運転のまち」として注目を集め、駅と住宅街や店舗を結ぶ住民の足として、自動運転バスの実用化を目指しています。一方で、持続可能な運行体制の構築に向けて、国の支援だけに頼らない自立した独自の財源確保が急務となっています。2027年度の自動運転レベル4サービス実装、そしてその先の持続可能な運行へ向け、市は企業版ふるさと納税を通じた企業とのパートナーシップに大きな期待を寄せています。地域の移動課題の解決と産業振興を同時に目指す「塩尻型MaaS構築事業(自動運転)」プロジェクトの歩みと、企業との共創に込めた思いについて、塩尻市商工観光部先端産業振興室の百瀬亮さんにお話を伺いました。
全国初の無人自動運転レベル4運行。交通DXの最先端を走る塩尻市
塩尻市は2020年度から、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)を含む交通DXに取り組み、車両やルートを段階的に変えながら実証を重ねてきました。
その大きな節目となった時期が2025年1月です。自動運転技術の実用化に向けた包括連携協定に基づき、塩尻市とともに事業を推進してきた「一般財団法人塩尻市振興公社」が特定自動運行の許可を取得し、JR塩尻駅と塩尻市役所を結ぶルートで、運転席を無人とした自動運転レベル4運行を実施しました。一般公道の歩車混在空間をバス型車両が運転席無人で走る、全国初の取り組みとなりました。
さらに2026年3月には、デジタル庁の「自動運転社会実装先行的事業化地域事業」に選定されました。この事業は2027年度を目途に自動運転サービスの事業化を目指す地域を関係府省庁が伴走支援するもので、選ばれた全国13地域の多くは大都市圏です。地方都市である塩尻市は異色の存在といえ「これほど長く自動運転に取り組んでいる自治体は、全国でも数少ない存在です」と百瀬さんは話します。
【画像】運転席に人がいない状態で走行する自動運転バスの車内
交通弱者を救う自動運転技術
塩尻市が自動運転技術に期待するのは、観光客向けの交通ではなく、地域住民の日常的な移動手段の確保です。全国の地方都市と同様に、高齢者をはじめとする交通弱者が安心して便利に暮らせる仕組みづくりは喫緊の課題です。市では、駅から先の二次交通や自家用車に代わる移動手段として、オンデマンドバスなどとあわせた「誰もが移動しやすいまち」を目指しています。
自動運転は、システムが担う運転操作の範囲によって区分されています。「レベル2」は運転手が乗車して常に周囲を監視する「運転支援」の段階で、「レベル4」は決められたルートや条件のもとでシステムが運転を担い、運転席を無人にできる段階を指します。
市では2025年5月から中心市街地でレベル2の定常運行を行っていますが、レベル4を日常の移動サービスとして定着させるには、さらなる実証が必要です。「安全性や安定性をより高める観点では、まだまだこれから。レベル4移動サービスの実現には継続的な実証が欠かせません」と百瀬さんは話します。
【画像】2020年度から車両やルートを段階的に変えながら重ねてきた実証の歩み
自営型テレワーク事業「KADO」をきっかけに企業の提案から始まったプロジェクト
プロジェクト発足の背景には、地域公共交通を取り巻く厳しい状況がありました。多くの地方都市と同様に、塩尻市でも運転手不足や運賃収入だけでは経費を賄えないことによる財源不足など、公共交通の維持が大きな課題となっていたのです。
その解決策の一つとして注目されたのが、自動運転であり、きっかけは市と塩尻市振興公社が推進する自営型テレワーク事業「KADO」でした。「KADO」は、子育てや介護などの理由でフルタイムでは働けない方に対して「働きたい誰もが、働ける機会」を提供する仕組みです。
2016年から高速道路などの高精度3次元地図の製作を請け負っていました。地域に地図を描ける人材がいることから、地図製作を発注していた企業から「塩尻市で実際に車両を走らせてみないか」との提案を受け、2020年度の自動運転実証のスタートにつながりました。
【画像】塩尻駅を起点に市役所や商業施設などを結ぶ東西2つの運行ルート
持続可能な公共交通へ。企業版ふるさと納税を通じた共創に期待
先進的な取り組みの一方で、自動運転バスの運行には、初期導入費、ランニングコストともに多額の経費を要します。2024年度までは国の事業として全額補助を受けていましたが、2025年度以降は補助率の見直しに伴い、市が独自に費用を負担する段階に入りました。
「運賃収入のみでカバーできるのは、運行コストのわずか1~2割程度というのが現状です。市ではガバメントクラウドファンディングや広告収入など多様な財源を模索しているところですが、なかでも期待を寄せているのが企業版ふるさと納税です」と百瀬さん。寄付企業には、寄付額に応じて市公式ホームページでの紹介や感謝状の贈呈を行うほか、希望があれば市長による贈呈式も開催するといいます。さらに、自動運転バスの車内に広告を掲出できる特典を用意するなど、ブランディングに資する連携策を用意し、全国の企業に広く支援を呼びかけています。
【画像】大手小売店と連携して実施した「自動運転バスに無料で乗ろうキャンペーン」
20年先を見据えて「自動運転のまち塩尻」を企業の皆様とともにつくる
国のロードマップでは2027年度が一つの節目とされており、市ではそれまでに塩尻駅と住宅街や店舗などを結ぶルートでのレベル4サービス実装を目指しています。その先は民間事業者とともに持続可能な運営体制として運営事業体を構築し、塩尻で培ったノウハウを他地域へ展開することも見据えています。
最後に、百瀬さんはプロジェクトへの思いをこう語ってくれました。「自動運転は5年、10年先に、必ず社会に必要となるインフラ技術です。長く取り組み続けてきたことで『自動運転のまち塩尻』といわれるようにもなり、いまでは塩尻市のブランドの一部になりつつあると感じています。企業版ふるさと納税をきっかけに多くの企業の皆様と連携し、全国の地方都市に展開できる持続可能な交通モデルをつくっていきたいと考えています」
いま、塩尻市のほかにも複数の自治体がMaaSやAIオンデマンド交通、デジタル配車システムなど、交通弱者にやさしい施策に取り組んでいます。それぞれのリンクから取り組みの様子をご覧ください。
長野県塩尻市 塩尻型MaaS構築事業(自動運転)
京都府京丹後市 新京丹後MaaS共創プロジェクト
岐阜県岐阜市 スマートシティぎふ推進事業(公共交通への自動運転技術の導入)
京都府京田辺市 公共交通リ・デザイン プロジェクト事業
岡山県津山市 AIデマンド交通事業
福島県喜多方市 未来へつなぐ喜多方の公共交通応援プロジェクト
福岡県香春町 持続可能な公共交通システムの形成~そうだ!かわらくバスで行こう!~
山口県岩国市 乗り合いタクシー「よべるん」運行プロジェクト
北海道釧路町 利便性と持続可能性を叶えた公共交通をつくる!地域公共交通維持対策事業
岡山県総社市 総社市新生活交通 「雪舟くん」 事業
福岡県岡垣町 おかがき成熟した都市の再生プロジェクト
語り手
塩尻市商工観光部先端産業振興室
百瀬亮さん
| 自治体 |
長野県 塩尻市 |
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